視覚トリックの有効活用
M.C. Escher:
すっかり春。お花見のシーズンですね。
桜色が一面に拡がる景色は本当に美しいですね。
延々と続く桜並木を歩いていると、どれだけ歩いたのか距離感が分からなくなったりしませんか?
人は通常、建物やモノなどの大きさや高さで無意識に距離を計っていますが、
延々と続く桜並木は、モノの大きさに頼れず、
一定に近い高さの桜を見上げるようにして歩くので
その距離感がつかみにくいというのが理由のひとつです。
逆に距離感をはかれない空間の中にいると、
時間までも忘れてしまうのがまたお花見の醍醐味であったりもします。
なんともいえない時空の錯覚ですね
そのくらい人の目というのはだまされやすいものですが、
では、そのだまされやすい視覚を逆に利用して
実際の空間の中で有効活用するにはどうすれば良いでしょうか?
単純に、空間を空間たらしめているもの。それは「奥行き・深さ・ depth 」です。
2D=長さ×高さ。これに奥行きが加わると3D(立体)になりますよね。
最近では3D映画も増えてきましたが、臨場感がやはり違いますね。
空間で有効活用する視覚トリック、それはまさに「奥行き感」にかかっています。
さて、トリックの代表格として表紙画像にエッシャーの絵を使いましたが
この絵を見ているほ自分の目線の動きに注意してみて下さい。
最初は全体を俯瞰で見て
①「階段がたくさんある塔か何かかな?細かい描写だな」くらいでしょう。
そして
②「あれ?何かおかしい・・・」と細部に目線が止まる
そして
③「いやいや、これはあり得ないでしょ」と、
そこから目線が絵の中の奥に移動してはじめてつじつまが合わないことを認識する。
とこのような順番かと思います。
つまり実際の空間に於いてもこのように視線は常に動いて止まって、
を繰り返しているので視覚のトリックを使うにあたり
目線の動きというのがとても重要です。
人の目線の動きを自在に操った空間といえば
まず最初に桂離宮が上げられるかと思います。
私がまだ空間の仕事を始めて間もない頃、研修で行った時の記憶、
油絵科出身の私、発想の源はまだ平面イメージだった頃
400年も前に作られたのに、この自由さ!遊び心!
と頭の中を誰かにシェイクされたような感覚を思い出します。
「遠近法を自在に操った遊園地のような仕掛けたっぷりの空間」が当時の感想。
ただ先ほど述べた①の俯瞰で見る・・・事は
この空間ではそもそもできません。
例えば、生け垣に挟まれた通路、その先を見たいけれど、
生け垣のエンドには視界を遮る松が一本どーん!!と。
「ここまで来ないと景色は見せて上げられないよ」と言いたげな顔で鎮座してます。
その効果としては「遠近の最後に目線を止める」アイストップ。
どうしても注意をひいてしまうという仕掛けです。
「奥行き」がありそうだけど、
見えないので、ないかもしれない、
けれど実際は想像以上に拡がっていた。(奥には池があります)
という物語性もある心理的遊び心も満載の仕掛けです。
本日はこのくらいで。
次回は
室内空間においてこの視覚のトリックを有効に活用するには
具体的にどのようにすれば良いか
・・・をお伝えしたいと思います。